バスの車窓から

 懐かしい光景を見た。鞄持ちである。あのジャンケンで負けた人間の屑が勝ち組の荷物を抱えて歩くという、小学生が人間社会における上下関係をその身に刻み込む素晴らしい遊びである。
 あの遊び、なぜか勝ったやつらは先に走っていってしまうという謎の決まり事があるが、本当にどうしてだろうか。鞄を運び続けた僕にはどうしても理解できない。人に聞こうにも塵虫のような僕の質問に答えてくれる存在はないだろう。
 ただ、今日見たのはどう見たって高校生の坊やであった。なんて微笑ましいんだろうか。僕は無視されるタイプだったので、構ってもらえている彼が羨ましく思えた。
 しかし、鞄を持てる限り肩に背負い歯を食いしばりながら前を歩く少年(×5位)を睨み付ける彼の姿は、どん底からでも這い上がってみせるという気迫を感じた。僕には無い物であった。僕は自分が恥ずかしくなった。
「頑張れ!!」と不意に叫んでいた。脳内で。