ウソとケーキと愛と胃袋

 バイト代が入った。あまり働いていないから微々たるものではあるが、給料はやはり嬉しいものである。懐がぬくぬくなので帰り道にコージーコーナーでケーキを買ってみたりした。毎週水曜日は父様が帰ってこないので、家族人数−1の4つのケーキを購入する。どのケーキも僕が厳選に厳選を重ねた末に選び抜いた極上のケーキたちであった。その激戦ぷりたるや、ハロプロのオーディションよりも厳しかったのではないだろうか。また、ケーキを選ぶ僕の姿は鬼気迫るものがあったらしい、「すいません、注文いいですか?」と僕が尋ねると、緊張の面持ちの店員のお姉さんが、ごくりと唾を飲んだのが丸分かりであった。
 早く食べたいとはやる気持ちを抑えて帰宅。突然ケーキなんか買って帰ったら驚くだろうな、とちょっと期待。家族の喜ぶ顔が目に浮かんだ。居間の扉を開けた僕を出迎えてくれたのは父様の素敵な笑顔であった。
 そんな馬鹿な。
 目ざとく僕の手に下げられたケーキの箱を発見した家族。当然中身は4つのみ。居間に流れる痛い沈黙。打破したのは僕であった。
 「みんなで、食べてください…。僕はもう、食べてきたから…」
 食卓に花咲く美味しさの笑顔笑顔笑顔。今日の紅茶は、やけに塩辛かった。