捨ててしまえ!
自尊心なんて、僕には必要ない。そう思わなければ、僕のちっぽけな自尊心を守れる自信がなかった。
衣料品を買いに行った。僕は自分が中肉中背であると信じている。だから、普段はLを買うのである。今日もそのつもりで店内を物色していた。買うものに目星をつけ、試着してみようとLサイズを探した。が、見つからない。仕方ないのでとりあえずMサイズを装備してみた。
肌触り良好。着心地良好。サイズぴったり。
え?
それは許されないことであった。Mではいけないのである。僕はLサイズの人間なのである。Mでは小さいんだよ。とか言ってなければいけないのである。
焦りで震える手でなんとか色違いのLを引っ掴み試着。
何かの間違いだ。間違いに違いないのである。
しかし、僕のささやかな望みは真実の鏡の前に音もなく、崩れ去った。
そこにはぶかぶかな衣装に身を包んだ醜いオタクがいた。
僕は天地がひっくり返ったんじゃないかというくらいに試着室の狭い空間でうろたえ続けた。
結局Mサイズを手に店を後にした。値段といいデザインといい、まさしく僕の求めていた商品だっただけに、僕は僕を捨てたのだった。
もう怖いものなんてないと思った。