泣いていいよと言って欲しかった

 悲しい記憶というのは、時が経つにつれ薄れていきます(いってしまいます)。あんなにぼろぼろだったのに、いまでは馬鹿話に平気で声をあげて笑えるんですから、人間は強くできているのだと実感します。
 でもその時悲しかったことに変わりはなくて、ただそのことが『過去のこと』に、記憶になってしまっただけなんですよ。今悲しくないのは、今に精一杯だからではないでしょうか。とてもではないが過去に思いを馳せている場合ではない。その必死さが過去を過去たら占めているのではないでしょうか。思い出そうとすればいつでもブルーな気持ちは、宅配ピザよりもお早くお届けにやってきますし。
 だけど、その気持ちを忘れてしまったら。平気な顔して笑いながら思い出せるようになってしまったら。あの時の気持ちが、まるで嘘のような日が来てしまったら。ましてや記憶そのものをどこかに落としてきてしまったら…。それは想像するだけで悲しいことです。
 だからこそ、僕らは手を合わせるのかもしれません。


 大切な記憶を、忘れないように
 大切の想いを、失くさないように
 大切な人を、涙ではなく笑顔で思い出せるように


 笑って思い出すことと、笑顔を思い浮かべることとは全然違います。願わくば、この気持ちを失くすことなく、胸のなかで笑い続けてくれれば、と。