他球団はストーブ

 雨の日には実験室の入り口に傘立てが登場します。学生はそこに相棒を突き刺して思い思いに動くわけです。僕も例外に漏れず、マイアンブレラを預けました。お分かりでしょう、良く有る話です。予想通り、僕の傘はトレード要因として旅だって行きました。変わりに手元にやってきたのは一回り小さくて、一つ能力の少なくて、一回り年をとった傘でした。まるで巨人軍とのトレードだな、と思いましたが僕は傘を奪われる星の下に生まれてきた人間です。もう慣れたものでしたが、それでも油断して傘を手放してしまう自分の不甲斐無さに弊僻です。大学生らしからぬ奇声を実験室に響かせて注目を浴びてから帰宅しました。
 しかし、もしトレードだと思って僕が傘を受け取ってしまったせいで見知らぬ誰かが困ることになったら…そう思うと夜も眠れません。帰宅の足取りは酷く重たいものになってしまいました。雨は好きです。だから暗い気持ちにはなりたくありません。もう二度と人の傘は取るまい、そう心に誓いました。