たとえこの命尽きようとも

 レポート提出期限までのこり2時間。僕はようやく作業を開始した。追い込まれた人間の限界を超えた能力に期待しての決断であった。というのは真っ赤な嘘で、本当はただレポート課題の内容を理解するのに手間取ってマインスイーパをやってしまっていただけであった。
 とにかく、普段は決して連続では聴かない電波的洗脳ソングを大音量で聴き続けることで脳を刺激しつつ、鬼気迫る勢いでレポートを消化していった。そして悲劇が起こった。ググって資料を確認してから作業中のワードを開くと、パソコンが止まった。マウスカーソルは動くけれどワードは反応なし。


 あああああああああああ


 あ……、ああ! これが奇跡なのですね?! ワードの自動保存機能のおかげで再起動後にデータ修復という奇跡が僕に舞い降りてくださいました。あとは、僕の脳髄が文章をひねり出せるかだけ。
 というわけで何とか提出完了できた。ぎりぎりはよくないなと思った。
 そのあと受けた授業で、僕が隣を見るたびに、空席のはずなのにゴミが積まれていくという怪現象が発生した。飴の包装が一つから始まって、授業が終わる頃には飴包装とティッシュの山ができていた。こいつはいったいどういうことだ、と後ろを振り返ると神様(だと自分のことを勘違いしているのであろうお馬鹿さんな男)が後ろの席から、げらげらと低俗に笑いながらガムをティッシュに吐き出して投げ捨てているところであった。とりあえず、彼に拾う様子はなかったので僕が代わりにゴミ箱へ移動しておいた。
 きっと彼の目にはゴミが消えて無くなったように映ったことだろう。「ああ、この世に妖精さんは実在したんだ!」と思ったに違いない。もし彼が本気で妖精さんを信じてしまって、ビルの屋上から飛べばネバーランドに辿り着けるはずだ、とダイブしてしまったとしたら、それは僕の責任になってしまうだろうか。いや悩むまでもなく、もちろん僕の責任以外の何者でもない。彼のこの先が心配になった。正確には、ガムを吐き捨てたティッシュや鼻水を拭ったティッシュを教室に投げ捨てる輩の存在など僕にはどうでもいいことの筆頭であるから、彼が血迷った行動(すでにとっていると思うが)をとったがために、僕が罪を問われてしまうことが恐ろしい。毎晩彼の無事を祈らなければならないと思った。