就職活動のガイダンスのような授業があった。隣通しの人と自己紹介をしあったり、『人材』という言葉の意味についてディスカッションしたりさせられた。
 教室の皆さんはお友達と和気藹々といった感じで自己紹介やらディスカッションやらを実に楽しそうにやっていた。生憎と僕には友達がいないので、教室の端の席で一人で座っていたため相手がいなかった。それでは何にもならないので他の一人者と一緒にやった。お互い当たり前に初対面であり、遠慮と羞恥心でまとまな発言はできなかった。


 就職活動で、人事さんが特に着目する点はコミュニケーション力だそうだ。実際の面接では初対面の人の前で今日の授業のような内容をするものと想像される。
 では、僕はどこの会社にも採用されることはないだろう。
 僕のような知識も回転もない頭を乗っけただけの自分のことすらまともに紹介できない丸められた鼻紙より価値のない存在よりも、教室を見渡せばはきはきと自分のことを話している人間がこんなにいるのだから、そっちを採用した方が誰の目に見ても有益に映るはずだ。
 将来への不安で押しつぶされそうになった。


 次の時間は実験室訪問であった。4年次に卒業研究を行うため、学生は大学内の研究室に配属される。その研究室を選ぶための企画である。
 同じ大学とはいえ、研究室ごとに内容は様々であり、自分のやりたい専門を見つける必要があるのだった。
 とりあえず2つの研究室で説明を受けて思うに、どうにも僕には高度すぎる。学生のなかでも飛びぬけて頭の悪い僕が配属されて、まともに研究ができることがあるとは到底思えなかった。
 将来への不安で霧散してしまいそうになった。


 強がりや虚勢を張ったところで、結局大事な局面では何も出来やしない。
 僕はそういう存在だということを改めて確認した一日であった。なんとなく日々を過ごしていると忘れてしまう真実。それを思いだすことができて、自分自身への思いあがりを正すことができた。
 今日、今からは、素直に生きていこう。


 とりあえず、明日の実験のために予習ノートを書かなければいけない。だが指定されたノートがA4であったかA5であったかがどうしても思い出せない。どうしたらいいんだろう……。