晴れやか

 普段、限界ぎりぎりのところで胃薬を食事代わりに生きている僕にとって、金曜日はかなり楽なスケジュールなので気が休まる。この日ばかりは啄木鳥でも住んでるんじゃないだろうかと疑うほど断続的に痛む胃も、油の切れたロボット並に軋む膝も、一般人の5割程度の能力を取り戻すらしく、実に快適になる。
 久しぶりに胃薬以外のもので栄養を摂取しようかと学食に行ったものの、蟻の巣をつついたかのような混乱混雑ぶりに5秒で止める。
 結局2年次にお世話になったポポラマーマで『べ……なんとか』とかいうパスタを食した。個人的な趣向でガーリック抜きにしてもらったのだが、バジルの香りが強く、本来の味とは違うのだろうがそれでもかなりの美味だった。


 ピアノのレッスンに行くと見慣れぬ幼女が先生と一緒に現れた。なんでも体験レッスンだとか。思い返せば2年前には僕も同じだったわけで(無論年齢的には犯罪レベルの差がある)何となく懐かしくなった。
 幼女は母親とともレッスン室に入っていたらしい。ものすごいプレッシャーではないだろうか。
 そんな無料レッスンを今日は2回もしたと語る先生は疲れ切っていた。
 曰く、体験レッスンは無料なのでただ働きなのだそうだ。
「これで契約してくれれば無駄じゃない。入ってくれるといいな」
 と遠い目をして言う先生に、僕は気の効いたことは何も言えなかった。己の不甲斐無さに嫌気がする。
 来週までに上手い言葉を考えておこうと思った。