マリオカートというゲームをご存知だろうか。ああ、車で競争をするゲームであっている

 夏休みが終わった。思えば、麻疹休校の関係で短い夏休みであった。それでも9月も終わりまで休みだったのだから、世の社会人からは贅沢だと言われてしまうだろうが、そんなこと知ったこっちゃない。俺の今だけが大切な論点なのだ。貴様らのことなどどうでもいい。
 心に浮かぶ呪いの呪言もそこそこに早朝の満員電車に乗り込み、学びたくて仕方のなかった科目の教えを請いに大学へと赴いた。
 この時間ならそれなりに席も埋まっているだろうと予想していたのだが、反して閑古鳥の泣き声が聴こえそうなほどの閑散さ。教室にいる人間の少なさに反比例して膨れ上がる不安感が俺を襲う。
 Mr.うっかりさんと自称するほどのうっかりさんの俺のことだ、またしても教室を間違えてしまったのかもしれない。いそいそと鞄に放り込んでおいた授業予定表の教室記名を確認する。
 そうして、不安感は不安になった。
 何度見直しても俺がいる教室の部屋番号と資料の番号に相違は見られない。まさか学生に配布した資料に暗号を用いるほど、学生課が暇をしているとは考え難い。俺は、教室を間違ってなどいなかったのだ。……では、なぜ?
「今週、S山と名の付く全ての授業ない」
「それは誠か?」
 唐突に聴覚を刺激した独特の声色。声が聴こえるまで気がつかなかったが、俺の目の前には見知った二人の男がいた。どちらも言葉を交わしたことはあるが、名前は知らなかった。友人とは呼べないほどの付き合い、つまりは知人だ。
 普段なら軽く挨拶をして、あいつの名前なんて言うんだろう、とどうせ誰にも聴く気もないことを30秒考えて思考の彼方に消えていくだけの存在であったが、聞き捨てならない点があった。
「その話、詳しくお聞かせ願いたい」
 極自然に話かける。彼らは初めから俺が会話に参加していたかのような錯覚を覚えたはずだ。不自然な要素を一切無くし、空気の如く馴染む極意。高校生活で友達を一人も作れなかった俺が自然と会得した空気になる方法を応用した、まあ簡単な技である。
 一体何を聴いていたのかと燻しげな表情を見せる男二人――そうだな、便宜上『モミアゲ』と『クロブチ』とでも呼ぶことにしよう。
 今さっきその話題で時間を浪費していた二人にとって、共に会話していたはずの俺がもう一度話を聴きたがるのを疑問に思うのは至極当然である。モミアゲのダウン系覚醒剤常用者のような半開きの口にも納得がいく。
 やや間があって、説明してくれたのはクロブチであった。俺が話の聴けない可哀想な奴だとでも考えていたのだろ。口調に若干の遠慮が見え隠れしていたが、俺は気にしないふりをしてやり情報の収集に努めた。
 クロブチによるところでは、S山教授は担当する授業を今週休校とする、と宣言したまま何処かへと旅立ったらしい。ということだった。らしい、というのも、彼もまた学生専用のウェブサイトから得た情報から分析したに過ぎないからのようだ。
 S山教授も悪趣味なことしやがる。
 件の学専ウェブサイト、大学内からしかアクセスが出来ないようになっている。休校情報も大学にいなければ確認のしようがないのである。なかには裏技もあるとS水君が語っていたが、俺にそんな技能を求められても困る。俺は凡人なんでね。特別なことはお前らで何とかしてくれ。俺も応援くらいならするからよ。
 つまるところが、俺が6時前に起床して苦行の満員電車に耐えてきたことに何ら意味が無かったということだ。
 まったく。……やれやれだな。

 長くなった。疲れたし、明日もそれなりに早い。ようするに、この暇になった時間にマリオカートをしたということを言いたかっただけなのである。本題に入る前に力尽きるとは思いも寄らなかった。マリオカート、実力伯仲同士でやると本当に面白い。
 あ、一人称が俺なのは仕様だ。このほうが、今日の日記が書きやすかったんでな。
 ではまた明日。


 追記
 昨晩、テレ玉にてひぐらしのなく頃に解が放送された。これほど埼玉県民であることが誇らしくく思えたことは無い。理解のあるマスコミが、埼玉にいて本当に良かった。