同級生と会ったんだ

 久しぶりに久しぶりな相手と久しぶりと言い合う奇妙な会合に出かけた。正直憂鬱だ。僕は何を勘違いしていたのかと、集合場所に向かう電車のなかで負の感情が胸中を駆け巡った。
 到着したころには何とか楽しい時間にしよう、という気になっていた。僕だって詰まらないのは嫌いだ。だが、そんな心意気も相手と二言ばかり言葉を交わした時点で遥か別の世界へと霧散していた。
 駄目だ、こいつとは相容れない。
 なんてことは思いませんが、なんだかどえらく警戒されていることが目に見えて分かった。僕はこの人に何かしたのか…? いやたぶん色々したんだろうが。思い当たる節が無い。ああ、だから僕は嫌われるのか。自分が他人にどれだけ不快感を与えているのか理解していないんだから、相手にしてみれば最悪に腹の立つ奴だ。僕だってそんな奴2秒で殴りかかることだろう。
 僕はその後5分間くらいは相手の緊張を解いてみようと努力したが、あっさりと無駄だと見切りをつけた。何か話題があがり、僕も参加しようと頑張って発言してみるのだが、その人から『手前には聴いてねえよオーラ』が滲み出ており、それ以上何も言う気にならなかったからだ。
 可視のオーラを放出させているのか、それとも僕にだけ見えてしまう感情の揺らぎだったのかは定かではない。
 まあ、嫌いな相手に話しかけられて楽しい人間など存在しない。それに、どうせこの人とは金輪際会いはしない。だったら、嫌われていようが怖れられていようが、構いやしない。俺の人生になんの影響も及ぼしはしないのだからな。
 割り切って見れば楽だった。ただやることをやるだけである。なんだか同席していたTAKA氏が必至な様子だったが、申し訳ないな。俺はこの件に手出しできないんだ。俺の存在がこの緊迫した空気を作っているんだ、だからといって出て行くわけにも行くまい。と、彼の頑張りを目だけで応援することにした。
 なんの話をしたのかほとんど記憶していないが、綾瀬はるかの話題がでたことは覚えている。
 その人は俺に向かって、綾瀬はるかが二次元よりも可愛いとは思わないのか? と尋ねてきた。俺に対して話をふったのはこれが唯一だった。
 はっきり言って、余計なお世話だと思った。
 確かに、俺は二次元が好きだし、女優やらなんやらの名前も顔もほとんどうろ覚えだ。だがそれは興味がないだけで、可愛いと思わないとかそういう訳じゃない。
 綾瀬はるか? ああ可愛いよ。可愛いと思うよ。だから何?
 だから二次元なんてくだらないから見るのを止めろとでも言いたいのかい?
 言わせてもらえば、そもそも、その価値判断が間違っている。いつだったか、到達する思考でも書いたが、あなたと俺とでは見ている世界が違う。あなたには世界が白に見えているかもしれない。だがな、俺にはこの世は憎悪に満ちて見えるんだ。理解できまい。理解するつもりもあるまい。
 ひとつ言っておくが、俺は別に二次元しか愛せないんじゃない。この世で最も愛する相手はこの世に確かに存在していた。だけど俺は弱い人間だから、気持ちが移り変わことに尋常じゃない恐怖を覚え、他の人間に好意以上のものを持つことを拒絶してるだけ。二次元はそのスケープゴートみたいなものだから。
 などとは一言も言わず、ああ、可愛いんじゃないか? と答えたのだが、俺の答えなど初めから聴く気がなかったらしく、THE独り言みたいになってしまった。俺以外に人がいるのに、綾瀬はるか眺めながら、可愛い、なんて独り言……俺もなかなかじゃないか。
 そんなこんなで解散の時間となった。なんてことはない、終わって見ればものの1時間強程度だ。
 分かれの挨拶も俺以外の人にやってもらって、今日ここに来てくれたことに対するお礼だけを口にした。二度と会わない相手に分かれの言葉は必要あるまい。俺は誰よりも早くその場に背を向け、そして振り返らずに歩いた。
 どうしてこんなに不器用なのか、自分で自分が嫌いになることもある。この日はまさにそんな日だった。
 だが、俺は器用に生きられないから不器用なのだ。
 不器用な人間は、人様が簡単に成し遂げることを少しずつクリアしていかなくてはならない。
 だからこそ、俺はそういうのも悪くないと思う。


 この日記はお会いした『その人』がこれを読まないことが大前提になっている。もし見たとしても、自分のことだとは思わないで欲しい。僕は嫌いじゃない。嫌いじゃないんです。ただ不器用なだけなんです。ごめんなさい。
 ちなみに、僕の途中から僕が俺に変わっているのは演出である。たまにこういうことをすると人称が変わってる、とか指摘を受けるので先に断っておく。