優先順位

 あとは鴻巣に行って交通ルールに関するいくつかの質問に答えさえすれば、晴れて公道を自動車で快走できることとなります。僕のような前しか見えていない視野の狭い人間になんと恐ろしい許可証を与えようとしているのでしょうか、国はかっこ笑い。
 自分で言っておいてあれですが、なるほど確かに、僕は視野が極端に狭いです。自分の向いている方向にしか興味がないし、注視もしない。視野外で何が起ころうが、気づきすらしない人間です。それはよく言えば一点に集中できるという僕の個性でもあり、悪く言えば周りに耳をかさない頑固者ってことです。
 そのことに気づいた僕は偉いですね。さすが僕です。さすが常識の第4ベクトル方向を行く男です。
 でも直らないのです。どんなに広い視野をもって物事に取り組むよう努力しても、我に返ったときにはひとつのことしか観ていません。そのときにあたりを窺ったところで、もう遅いなんてのはよくあることです。さすが僕です。教訓から何かを学んだところで、それを活かすことが出来ない男です。さすが口先だけで理解した“ふり”をするのが上手なペテン師です。
 だから僕には側にいてくれる人が必要です。前しかみていない僕の、代わりの『目』になってくれる存在。これはただの甘えだと言われればそれまでではありますが、僕にとってはなくてはならないかけがいのない存在です。僕は最大限の感謝を彼らにしています。それは言葉にしていないし態度にもあまりでません。でも心では常に思っているのです。嘘です。ときどき心で感謝しているだけです。
 とにかく、僕という存在は他者によりようやく成り立っているということです。僕はこのことをとても嬉しく思っています。だって、一人ではないってことですから。