それは夢と言うにはあまりにも幸福すぎる時間であった

 夢枕というんでしょうか。その一瞬一瞬がとても優しい空気に守られているようで、むしろ現実感を持っていました。僕にとってのこの上ない幸福がそこにはありました。
 その人とは会話を交わしたことも無い様な間柄です。ちょっと違う気もしますが、その人は結局のところ“片想い”という言葉が一番しっくりくる人です。そんな相手がどうして僕の元に来てくれたのか、はたまた僕の只の思い込みによるものなのか。でも、僕は今まで一度だってその人の夢を見たことは無かったし、寝る前にその人のことを考えたりはしていませんでした。つまり、全くの無意識。あの人が僕を訪ねてくれたとしか思えないのです。
 これが気持ち悪い男の気持ち悪い思い込みであることは分かっていますが、そう信じたいです。


 僕は歩いていました。知らない道です。でも目的地は体が覚えているようで、気がつけば玄関に入っていました。顔は、あまりよく見えなかったし、誰の家を訪ねたのかも分かりませんでしたけど、けど分かりました。この家の主はあの人だと。
 お邪魔します、とか緊張しながら声をかけ、いらっしゃい、とか返事をされて。それだけで昇天するんじゃないかと思うほどの幸せでした。この光景こそ、僕の望みだったのだと思います。これ以上は何も望みはしません。
 なぜか僕にご飯を作ってくれて、ご飯と味噌汁だけのシンプルメニューでした。薄靄がかかったような視界からして、今が朝なのだと想像しました。その人はパン食でした。ご飯がすんげーすんげー美味かったです。味噌汁を一口含んだとき、これが最後の晩餐だとしてもなんら後悔はないなと思いました。むしろこれでお願いしたかったです。
 やっぱり緊張しながら、美味しいです。と伝えると、クスリと笑って、君はやっぱり“ぱっ”な人だね。と言われました。天使か妖精を彷彿させる笑顔でした。言われた内容もなんとなく自覚していることで、なんだか恥ずかしかったです。でも、その人が僕のことを知っていると知って嬉しかったです。
 そのとき、僕の隣に人がいることに気づいて、パソコンをいじっているなぁと思ったら夢が遠ざかっていきました。
 目を覚まして、夢であったと初めて気づいて、彼女にお礼を言いました。午前7:00のことでした。


 そういえば、その人の家に行く途中で、誰か知らない人に何かを言われた気がします。よく思い出せません。目覚めてすぐに忘れないように夢の内容を何度も反芻しましたが、そこだけが抜け落ちています。なにか、大事な注意を受けたような…


 布団から脱出すると、今日の野球の対戦相手から対戦をやめにしてほしいとメールが入っていました。すごい幸福な気分が酷く害されました。迷惑メールを送ってやろうかと思いましたが、幸福だったので柔らかな内容で返信しました。返事はまだ着ていません。