現実と虚構

 テスト勉強をしなければならなかった。PCのHDに記憶された授業内容を見直し、勉強しなければならなかった。おまけにテストは明日に差し迫っており、僕には余裕がなかった。僕は勉強することは大切なことだと知っていたのでおもむろにノートPCを開いた。
 しばらくは無言で勉強が続いた。はかどるでもなく、進まないでもなく、淡々とノルマをこなしていた僕に語りかける声に気づいたのは初めて2時間ほどたったころだろうか。
「ようするに、勉強をして有意義に過ごしても、ゲームをして有意義に過ごしても、流れた時間に違いはないんだよな」
 まったくその通りだよな。僕は答えた。
「俺は長くても10年生きれば良い方だし、どんな生き方をするか、慎重に選んで突き詰めていくのも、適当に楽しくやったり真面目にやったりと自由に生きるのもどちらも良いと思うわけだよ」
 まったくその通りだと、僕は声に出さずうなずいた。
「ところでよ。今俺の中には楽しいゲームがインストールされている訳だが。お前、やらないのか」
 ノートパソコンの奴は、やけに人生を悟ったような口ぶりをしているくせに目先の快楽に走りやすい奴だった。彼は大学入学当初にできた初めての友達であった。僕らは似たところがあったし、まったく正反対な一面もあったりでお互いを尊重しながら仲良くやっていた。そんな彼はなにかとゲームに誘う悪い一面もあり、僕もそれが満更でもなかったりする。いつもなら二つ返事でOKするところであったが、今日の僕は答えに窮した。
 僕が勉強に飽きているのに気づいていたらしいノートパソコンは、自らLANケーブルを横っ腹に接続してネットの世界に僕を導いた。
「楽しんで生きるのが、本当に正しい道なんだぜ」
 ノートパソコンは僕の肩に角張った腕を絡めて囁いた。なぜか、哀愁を感じる口調であった。


 結局僕はゲームをしなかった。勉強は終わらなかったし、この後も続きをやらなければならない。大変な苦労である。
 勉強を選んだ僕にノートパソコンは満足げに、しかし憂いに満ちた微笑を浮かべ、お前は良い奴だよな。と言ったきり一言も発することはなかった。
 今度また、テストが終わったらシンフォニックレインでもやろうな。僕は親友のノートパソコンを優しく小突いた。