怖いことなんかない。ただ震えていればいいんだから

 今から丁度一ヶ月前のこと、チョコレートが主食である僕は心優しいバイト先のお姉さまがたからバレンタインとやらのプレゼントをいただいた。チョコレートを体構成の主成分にしている僕には嬉しい出来事であった。
 しかし、世の中は旨い事できているようだ。プレゼントにはプレゼントを返さなければいけないらしい。しかも必ず3倍返しで。
 両者の関係が親密であり、何かにつけて贈り合う仲であったとすれば、御返しの内容は、始めのプレゼントの3倍、次はその3倍で9倍、その次は27倍、81倍、243倍…とグレードアップしていくのである。恐ろしい話である。
 ついでなので金額い換算してみよう。始めてのバレンタイン(以下Vと記述)が初々しく200円程度の安物であったとして、ホワイトデー(以下Wと記述)では600円相当のものになる。翌年のVでは1800円の結構豪華なものになり、Wには5400円か。居酒屋で夕食でもご馳走することとしよう。さらに翌年、Vは16200円。どこの高級品であろう、デパートとかにはあるのだろうか。Wにいったては48600円。居酒屋じゃだめだ、リストランテでなくては。さらにさらに翌年、恐怖のV。145800円、貧乏人の僕にはもう、思いつかないや。Wでは437400円か、貴金属か?宝石類か?ドンと来いよ。そして迎えた4年目V、1312200円也。これだけあれば、ザ・シェフを雇えるかもしれない。W3936600円。車でも、買いますか?5年目V11809800円、チョコにこだわるとなると限界ですな。W、35429400円。6年目のVで10628820円となりついに晴れて臆越えとなる。
 まるでねずみ講のようである。
 が、これだけの金銭が飛び交えば日本の経済も少しは回復することだろう。だが小耳に挟んだ話によると、実際3倍になるのはWだけらしい。日本は景気回復の機会を逃してしまった。実に残念である。
 だからホワイトデーは恐ろしい。恐ろしいのでお返しを買うのはやめにして手作りにした。今回はガトーショコラを焼いてみた。ビターチョコレートをふんだんに使用したため苦みばしっていて美味しかった。僕個人としては甘いのが好きであるが、お姉さまのうちのお一人が「甘いものは嫌い」で食べてくれないのでビターにした次第であった。
 お姉さま、「さっきお菓子食べちゃってカロリーが気になる」と、一蹴。食べてくれなかった。