酒は飲んでも飲まれるな
無事成人を迎えた僕は、ついにお酒を飲むことができることとなった。
―――『お酒は二十歳になってから』
これまでの人生で頑なに守ってきた法律。昨今の日本人でこの法律を守っている人間はもはや皆無に等しい。知っている限りではエイト氏のみだ。そもそも、法律で決められているのにも関わらず当然のように横行する未成年の飲酒。同じ違法行為である万引きをする人間は少ないのに、なぜ…。
つまり、お酒には法律すらも忘れさせる魅力があるのだ。その魅力こそが僕の意思を強くした。
―――そんなに美味しいものならば尚更、今飲んではいけない
まだ見ぬ未知の味覚。お酒。もはや僕のなかで、お酒は林檎―禁断の果実へと昇華していた。だが僕の鉄壁の意思はアダムの愚行を繰り返すことはなかった。今日に至るまで、一滴たりとも体内にアルコールを取り入れたことはない。これは自慢だ。
そして僕は合法的に飲酒が可能となった。
家族と乾杯をして、日本酒を注いだグラスを口に近づける。高鳴る鼓動。全神経が味覚に集中する。すべては、この瞬間のためにあったのだ。
最初の一口。
まず…
トッテモ オイシカッタ デスヨ。
ともかく、これでやっと皆さんとの宴会に参加できることになった。夏の旅行が楽しみだ。