二次元世界からの脱却は、広大な世界を教え、そして絶望に導いた

 地を這うことしかできない虫は二次元世界に生きています。彼らには平面こそが全てなのです。しかし、彼らは羽を手にした瞬間、空間へと飛びたつことになったのです。そこは三次元空間。2次元世界よりも遥かに広大で、終わりの見えない世界です。
 彼らは己が身には広すぎる世界に絶望したのか、それとも無限に広がった可能性に歓喜したのか。
 というわけで、S水君と空間について語り合いました。僕らは三次元に住んでいて、三次元を認識して生きています。この世界では、3本の直行する直線が交わってできています。そして、紙などのように、2本の直行する直線で構成される世界を二次元と呼びます。僕が大好きなのがこの二次元です。まあそんなことは今回どうでもいいことです。
 論点となったのは、二次元における三次元表現についてです。皆さんは紙に三次元を描こうとしたとき、どのようにするでしょうか。実際にやってみてください。3本の直行する直線を描いて見てください。
 どうでしょうか、おそらく、十字に線を引いてその中心を通る斜めの線を描いたのでは? それで正解です。
 さて、今紙に描いて見た三次元をもう一度よく見てください。“本当に直行する三本の直線”になっていますか? 違うはずです。一本はどう逆さに見たって45度で交わっているはずです。これでは三次元の定義には当てはまりませんよね。
 これこそが、二次元世界の限界です。二次元である限り、直線を3本直行させることは(三次元は描くことは)不可能なのです。
 では三次元空間なんて存在しないのか、といえばそんなことはありません。簡単なことです。3本の鉛筆があれば誰だって証明できます。空中で『縦・横・奥』に鉛筆を組むだけで、ほら、三本の直行する直線の完成です。疑うのなら分度器でも三角定規でも持ってきて計ってみなさい。
 二次元では不可能だった三次元が、三次元ではあっさりと存在を証明できる、このことが何を意味するのか……。
 僕の意見は四次元世界の存在です。
 僕らの住む三次元世界では、四本の直行する直線は存在しません。つくれないのです。じゃあ四次元なんて存在しないじゃないか、というのは早計です。これは二次元世界で三次元がつくれなかったことと、一体なにが違いますか?
 つまり、四次元世界に住むモノにはいとも容易く4本目を直行させることができるはずなんです。それは三次元世界では直行しているように見えないけれど、二次元世界での三次元表現と同じ、四次元世界でなら直行するはずです。
 四次元を認識することこそが、四次元を手に入れる唯一の手段なのだと、S水君と二人結論をだしました。
 もし四次元に目覚めることができたなら、虫が羽を手にしたように僕の視界も一気に拓けるに違いないです。それはとても素敵なことのように思えますが、三次元世界に住む人からは理解できないモノになってしまうでしょう。それはまるで、電車内で電波を受信して独り言を続ける異常者のように。もしかしたら、彼らは見えているのかもしれません。僕には見えない、四次元の世界が……。


 僕は今三次元に住んでいて、この上なく二次元萌です。ならば、四次元に住めば、三次元萌になるのかもしれない。
 そうS水君に言うと、彼は不敵な笑みを浮かべ僕にこう言い放ちました。
 じゃあ、一次元に萌えるところから始めて見たらどうだ?
 と。
 一次元。直線のみの世界。む……直線に萌え…れるのか? 四次元に目覚めるのが先か、それとも一次元萌に目覚めるのが先か。難しい、良い勝負なような気がしました。