お腹がすくよね。苦しいよね。

 研究室で院生の四苦八苦する様を見学する。
 身内しかいないのだから、そこまで緊張しなくてもいいのでは?
 と思ったが、数秒後に先生と目が合い、先生がいるからだと気づく。
 動悸がした。
 今すぐにでも奇声をあげながら走りだしたい気持ちで一杯になったが、常識人の僕はぐっと我慢する。
 僕は先生が苦手なのではない。断じてそうではない、と胸に充満する黒い靄を霧散させることに終始していると院生の研究室内での発表は終わっていた。
 今思い出したが、卒業アルバムの写真撮影をされた。
 あんまり写真というのが得意ではないので、写りたくなかったのだが、気がついたらセンターでポーズをとっていた。
 生来の目立ちたがり屋はこれだから困る。
 卒業アルバムは買わないと思うが、いい思い出になったのではないだろうか。
 30年後の晩秋、友の仏前で大学時代の思い出を独り語り、あの頃の写真が何一つ残っていないことに涙することになるとは、このときの僕には想像もつかないのだった。