もう9日の午後なんですけどね

 昨晩のことだった。
 疲れ果てて帰宅した俺はとりあえず豚キムチが食べたい気分だった。
 あのTOMO直伝の豚キムチだ。
 だが豚がなかったので鶏肉で作った。まあそんなことはどうでもいい。
 問題なのは、気を抜くとキムチに顔を突っ込んで寝てしまいそうだったことだ。
 俺は緊張した。
 もし眠ってしまえば、もはや洗っても落ちないキムチ臭が顔面を支配し、会社では『キムチ小石』などとよく聞こえる陰口を叩かれてしまう。
 俺はキムチは食べるが、キムチなどと呼ばれて喜ぶ趣味はない。
 しかし、眠い。
 キムチ。
 もはや俺がキムチなのか、それともキムチが眠いのか、あれ、アマガミってキムチを口の中で噛み砕かずにしゃぶるゲームだったっけ?
 意識はもはや朦朧状態だった。
 その時確かに甲高いノイズが俺の耳朶を打った。
 混濁した思考のなか、妙に聞き覚えのあるその音を思い出そうと俺は必死にもがいた。
 完全に泥沼に沈みこむ直前、シナプスがつながった。


 下の家のギシアンだ……


 しかも、何だ……この高周波の振動音は……


 まさか、大人の…おも…ちゃ……?


 目が覚めると深夜2時であった。
 口のなかが猛烈にキムチだった。
 寝起きではっきりしない状態で何気なく手を口に持っていくと、大量の唾液とともに白い白菜が現れた。
 あー キムチアマガミしちゃったー。
 笑えなかった。ティッシュでキムチくさいテーブルを拭いた。


 とりえあず歯だけ磨いて寝た。


 脳を直接刺激する振動に目を覚ましたのは今朝8時前だ。
 何がなんだかまだ夢の中にいるような俺には分からなかった。
 空気の振動、木造アパートの響、高い音、低い音、ドラム……?
 徐々に霧の晴れていく俺の脳みそに天啓が下った。


 下の家のステレオの音だ……


 俺はキレた。
 世間では仏の小石などと自称している平和主義の俺だが、善悪の区別もつかない寝起きだったので容赦なくキレた。
 俺はロフトベッドと呼ばれるベッドを使っている。
 眠る所の高さはおよそ150cm強だ。
 そこから飛んだ。


 膝と足首を痛めた。


 ステレオのボリュームはまったく下がらなかった。


 足が痛くて、もうベッドからの落下はできそうになかったので、原始に帰った。
 世間では「V6の岡田君似の北京原人」と呼ばれている俺が、ドンキーコングJrよろしく床でドラミング行為に及ぶのは、もはや自明の理と言えた。


 2回、つまり左右一回ずつ叩いたところでやめた。
 手首が痛かった。


 ステレオのボリュームが30から25位には下がった気がしたので、まあ良しとしてやることにした。
 実際節々が痛くてそれどころじゃなかった。


 んで、今ようやく復活したのでこうして日記に書いています。
 僕は元気です。