トイレの風景

 カラオケ行ってきたんですけど、お腹が痛くなってですね、トイレに駆け込んだんですよ。


 個室で瞑想に集中していましたところ、天啓に閃きが降り立ち、なんと悟りを開いてしまいました。
 「まじありえないんだけど」
 いやいや、たしかにありえないけど本当の話ですよ、お嬢さんがた。


 お嬢さん……


 お嬢…さん……?


 下半身丸出しで悟りを開いた僕に、悟りを開いた以上の衝撃が駆け抜けました。
 ついでに出かかっていたものも引っ込みました。
 待ってくれ。
 なぜ、なぜ女性がここにいる?!
 聞き間違いを祈りたいのに、お嬢さんがたの会話はまさしく若くてちょっとお頭の足りない女性そのもの。
 これを男がやってるいるなんて、そっちの可能性のほうを否定したい。
 なんて考えている場合ではありません。


 個室にいる僕。
 トイレに入ってきた女性2人。
 下ろしたてのパンツ。


 え、どうしたらいいの?


 まじありえない状況下、お嬢さん2人組みはどうやら僕が個室からでてくるのを待っているご様子。
 そうだ、落ち着こう。
 まずは素数でも数えて落ち着こう。


 1、3、5、7、9、11、13……


 お腹が痛くて駆け込んだから、間違えて女子トイレに入ってしまったのかもしれない。
 ていうか、うら若き女性の生息地をポケモン図鑑で調べれば、男子トイレは含まれていないに決まっているので、もはやここは女子トイレで疑いようがありません。
 ああ、母さん、息子は23にして性犯罪者になってしまったよ。
 脱出ルートもないし、うまく誤魔化せる理由もない。
 個室って時点で、すでに八方の内七方が塞がっているのに、残りの一方もお嬢さんに封鎖されて…。
 ははっ。これが本当の八方塞りってやつか。


 そうだ、捕まったらメールなんてできないだろうから、今の内に皆にメールをしておかないと。
 一緒にカラオケに来ていたDEESの皆に状況を伝えておこう。
 ああ、これが最後のメールかー。
 彼氏がありえないらしい、板一枚隔てた向こう側にいる女性は、一体どんなリアクションをとってくれるんだろうか。
 叫ばれる前に後ろに回りこんで口を塞いげば、もしや……。
 いやだめだ、手を洗っていないからそれはできない。
 と、係から返信だ。


『そんなことより明日アイマス展いこーぜ』


 ははっ。なんだこれ。
 そうだよな。"そんなこと"だよな。
 僕はまだ、アイマスDSだってプレイしてない。
 こんなところで人生を終えるわけにはいかないさ。


 メールの受信から3分。
 女性はまじありえないらしくて、トイレから出て行きました。


 僕は恐怖をう○こと一緒に水洗トイレに流し、個室を出ました。
 自分でも驚くほどにおっかなびっくり、事前にトイレに這いつくばって、外に人がいるかどうかの確認までして。


 というわけで明日アイマス展に行きます。
 やったね!