帰ってきたら雨

 北朝霞の駅を降りたときは雨は降っていなかった。夜には雨という天気予報は外れたのかといわれのない怒りが雨雲を突き抜けて、日本を代表する最近受信料をうまい事回収できていないテレビ局に向かった。
 最寄り駅に着く。自慢なのだが、僕はかなりローカル地帯に住んでいる。そんな説明しても十中八九誰も知らない駅に到着した電車から飛び出した時、僕の鼻孔をくすぐる独特の香りが漂った。この甘く囁くようで、それでいてしっかりと僕の心に響き渡る魅惑の香りは…!
 緊張が走る。
 ベッドタウンなので結構な量の人間で溢れたホームで一人、僕は屋根に隠された空を見上げた。無機質な天井に遮断されていてもはっきりと分かる。人波の奏でる軽快な足音に小気味良い雨音のリズムが重なり、美しい旋律を生み出していた。
 雨が降ってる。
 改札を抜けてロータリーに出ると夜の街はしっとりと濡れ光っていた。これはつい先ほど振り出した雨ではないことは明らかだった。朝霞と僕の住む田舎の街では天気も違うのかと正直驚く。
 今日は早く帰るつもりでいたので傘は持っていなかった。雨に打たれて歩くのは嫌いではない、というか大好きなので苦にせず歩き始める。歩きながら考えるのは、6月に別れた彼女のことだった。昔の日記に書いたと思うが、皆さんは彼女のことを覚えているだろうか。あの子は今も頑張っているのかと思うと自然と背筋がしゃんと伸びる。もう帰ってくることもないとは思うが、いつか一目だけでも姿を見せてくれたらと感傷に浸る。途中にあるコンビニの傘たての前でしばし立ち止まったてから濡れて帰った。