買い物る

 今日は近所の本屋さんへ買い物に行った。S君も誘ったのだが、生憎と学校らしく僕は単身出かけることとなった。
 お目当ての店へ入ると、なんとも嘆かわしいことにレジは若い女性二人であった。しかも僕好みのいい感じである。僕は止む終えず、ついでに行こうと思っていた散髪を先に済ませようと、レジ交代の時間に再び訪れるこにして店を出た。
 初めて入る美容院だった。僕は基本的に散髪が苦手である。慣れなれしくトークしてくる美容師が苦手だからである。なぜなら僕は慣れない人間と人語を交わすことができないからだ。そのため、僕はさながら防空壕のなかで「爆弾が降ってきませんように」と祈っていた実祖母の気持ちで席についた。
 「今日はどんな風に?」
 「み、短めにお願いします」
 素晴らしい会話であった。後は小気味良く繰り返されるはさみの音を聞いていればよい。切る人間をと切られる人間の関係はこうでなければと思った。そのまま僕は目を閉じた。いつものことであった。
 終わりました。との言葉に覚醒し、僕は我が目を疑った。
 坊ちゃん狩りじゃないですか。
 喉まで出掛かった。いや、たぶん出てた言葉を飲み込んだ。が、やはり鏡の前で馬鹿面で口を空けている坊ちゃん狩りのオタクは僕に間違いなかった。
 これでいいですか。と聞かれたので、はい、これで良いです。と僕は言った。切り終わった後で指示を出すのは得意ではないからであった。
 家に帰ったら自分で切ろう。とりあえず切りそろえられた前髪をかき上げながら、そう堅く決意した。
 色々問題もあったものの、気を取り直して本屋へ戻った。もちろん常に髪の毛をかき上げる作業を続けていた。美容院では洗髪もしてくれなかったので、僕が髪をいじる度に細かい毛がはらはらと舞っていた。そのため僕の歩いた後には蟻の行列のように髪の毛が連なっていた。家に帰るとき、道に迷わなくて助かる。気分はヘンゼルとグレーテルであった。
 時間をおいてもやっぱりレジは若いおなごのままであった。僕は腹を括って商品を手に取った。今日買わなければ特価セール期間が終わってしまうため、なんとしても手に入れたかったのだ。僕、漢になった。漢とかいて“おとこ”と読むのであった。
 一時間ほど吟味に吟味を重ねた。何度か整理にやってくるお姉さんに、すいません、と言おうとしてどもったり、ゆっくり選んでくださいね。と笑顔で言われたりしながら、厳選したエリート商品を2品、レジへと運んだ。
 お姉さんは笑って、特別ですよと言いながら一割引にしてくれた。買った品は穴が小さくてなかなか入ってくれなかった。やはり大人用のバットを少年用のバットケースに入れるのは無理があったのかと思ったが、お姉さん曰く、そのうち慣れて穴が広がるそうなので安心した。
 店を出ると強風のため、僕の髪の道しるべは跡形も無く消し飛んでいた。気分はヘンゼルとグレーテルであった。
 が、そもそも道しるべを辿っては再び美容院に着いてしまうのでむしろ嬉しかった。もう二度とあの美容院には行くまいと思う。


 購入したバットは長めで軽めのを選んだつもりだが、使える代物かどうか今度のチキンズの時に経験者の方にチェックをお願いしたい。