おい、おい

 朝の混雑は様々なドラマを巻き起こす。武蔵野線が30秒ほど遅れてしまったため、僕は階段を駆け下り、すでに扉を開いている中央線に飛び乗るためホームを疾走していた。階段付近はもはや人の踏み込むことを許さない禁断の鮨詰め地帯。確実にこの電車に乗るためには、ホームの端まで行かなければならない! そのときサラリーマン風のおじ(に)いさんが僕の前に立ちふさがった。僕の進路を塞ぐ気か、だが、そう思い通りにはさせない。気分はもうアイシールド21である。瞬時に右から抜くコースを選択すると、軽やかなステップで進路を変えた。刹那、サラリーマンが僕の正面に現れた。まるで流れるようなその動き、まったく視認することができなかった。なすすべなく僕はブロックに阻まれてしまった。
 寸前で足にブレーキをかける僕の反射神経のおかげで、激しい衝突にはならなかったものの、やはり走っていて迷惑をかけたのはこちら。素直に「ごめんなさい」と謝罪して、一目散に駆け出した。しかし、そのとき背中にドスが突き刺さった。サラリーマンが言葉のドスを抜いたのだ。「おい……おい!」と凄みを利かせて僕をひきとめるサラリーマン。
(∩゚д゚)アーアーきこえなーい
 とにかく時間が無かった。具体的に言えば後5秒くらいしかなかった。サラリーマンの怒りはもっともだが、僕は謝ったし、あそこでふらふらしていたあなたも悪いし、とにかくこの電車に乗らないと大学間に合わないし。脳内会議は0.1秒もかからず終了。振り返ることなく走ったが、僕には怒りを顕にするサラリーマンの姿が背中ではっきりと見えていた。視界が360°に広がっていたのだった。
 そんな感じでついた大学なのに、授業をサボって家に帰った馬鹿がいる。お願い、怒らないで、悪いって分かってるから……